陰陽の世界-11                      表紙へ

 
 もともと外来思想であった陰陽五行説ですが、わが国の文化・習俗に少なからず影響を与え、今日にまで至っています。様々な年中行事や季節毎の祭事、日常の細々とした習慣や作法やしきたりの中に脈々として息づき、千数百年の歳月のうちに日本人の生活の規制原理・規範となりました。私たちがもはやそれを陰陽五行説の精華と意識しないのも、歴史的知識の欠如などでなく、巨大な社会的無意識の推積としてその国の国民生活を裏から支える生きた土壌に他ならないからです。
 ここではそのひとつ「七五三の祝」について述べてみましょう。



「七五三は人間に成る祝い」
「人は生を享けた始めに天の気を受け、二歳にして地の気を受ける。三歳にして初めて人の間に生き、天地人三才の気がととのう。これ人なり。
 ゆえに三歳をもって人の形の始めとする。四歳にして東西南北、四方向の気ととのい、五歳にして木火土金水、森羅万象の神(元素)を我がものとする。六歳にして六(りく)神(しん)獣(じゅう)の恵みを知り、六曜の加護を受ける。七歳にして太陽、太陰、五惑星の七曜がととのい、人の性を知るなり。」
 人間の人格形成論を陰陽五行説により簡潔に濃縮した中国古文書の一説ですが、これは今日の「七五三」のお祝いの原型にあたるものです。
 人は生まれてから七年間の歳月をへて、始めて人間としての人格を完成させるのです。三歳、五歳、七歳のそれぞれは各段階の一種の到達点を示していることが分かります。三歳は「意識の始まり」、五歳で物事の「つながりを意識」し、七歳に至って「人の性を知る」わけです。儒教流に言えば、「男女七歳にして席を同じうせず」、いいかえれば、七歳から男・女各々教えるべきことがある、ということになります。
 赤子が人間としての人格をもって出発するには七歳までかかるが、赤子が生まれながらに持つ動物的気質をこの間に一度破壊して、親が親なりに人間としての感性につくりかえ教え込んでゆく努力を欠かしてはならない、との教えでもあります。
 「七五三」のお祝いは、赤子が少しずつ人間になっている次期を選んで祝福しようとする、古来からの人間賛歌と言えましょう。


          
「七五三の二面性に着目する」
人は天と地の間に生きる、というのが陰陽五行説の基本です。従って生まれてから順次天の気、地の気、人の気を受け、三歳で人間に仲間入りするわけです。日本では主に三歳と七歳が女の子のお祝いで、男の子の祝いは五歳となっています。
 こうした風習は後世になってから考えられたものでしょうが、その理由は陰陽五行説の分類に従っています。
 人間の誕生は祝福すべき明るい陽の年と定められました。そして奇数年を陽(プラス)、偶数年を陰(マイナス)としてかけ合わせます。すると三年目は陽(+)×陰(−)×陽(+)で「陰の気の年」、五年目は「陽の気の年」、七年目は「陰の気の年」となります。
 こうして三歳と七歳は陰、つまり女の子の祝い、五歳は陽で男の子の祝いと定められたわけです。
 さて、人は七歳位でほぼ満足な人間になります。この陰陽五行説の人格形成論は、現代の精神科学(心理学)の結論とも符合するようですが、「人間になる」とは一生を通じて決して逃れることのできない、その人特有の気質(性格)形成が完了することを意味します。つまり、その人間のその後の全生涯を支配する自己制御装置(精神世界)がここについに完成されるわけです。こう考えると、特に親は「七五三」を漫然として祝福してはいられません。親にとって子供の成長は何にも代えがたい喜びですが、同時に「三つ児の魂百まで」の諺(ことわざ)を待つまでもなく、これほど後になって取り返しのつかない恐ろしい時期も他にないのです。従って、「七五三の祝い」は同時に、自信と真心を持って子供を育て慈しんできたかを問う親に対する自戒の意味もありましょう。
 最近では「七五三」のシーズンになると華美に着飾った両親と子供が神社に参拝する風景が目立ちますが、既に述べた通り、「七五三」は子供の人格形成に対する厳粛な儀式であることを忘れてはなりません。「七五三」の持つ人間賛歌と親に対する戒めの二面性にぜひ着目して、自信とつつましいプライドを持って「人間に成りつつある」子供を祝福し、その健やかなることを祈念したいものです。


    
◎性格形成と仕事
 誕生してから七歳までの間、親から常に暖かく安心して育てられた子供は、それを忘れずに成長し、大人になってからも心を閉ざさない人間になるといわれます。
さもしい偏見や先入観や固定観念を持たない人間になること、つまるところ、これが陰陽五行説から導き出される人間論と言っても過言ではありません。
大人になったら人は働きますが、経営者も勤労者も等しく大切なことは、常に「心の開いた人間」であることです。この態度が周りを豊かにし、人を育てます。その端緒を形成する「七五三」の意味をもう一度ゆっくりと噛み締めたいものです。



                野 島 和 信 算 命 学 講 義
                     2016年3月1日



次回「陰陽五行の世界」続き   ※上座と下座 北方優位説  不滅の江戸城の秘密 



六曜=先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6種の曜(ろくよう・りくよう)

七曜=昔の天体暦  太陽と月と五惑星→日・月・火・水・木・金・土を配当したもの

(りく)(しん)(じゅう)=玄武神・朱雀神・青龍神・白虎神・勾陳神・騰蛇神

 

           

※玄武神(北方)「魚類・亀・イルカ・鯨・ペンギン・ワニ・サメ等」
          海・川・湖

※朱雀神(南方)「鳥類・コウモリ等」遠隔地を自由に行き来

※青龍神(東方)「狼・狸・鹿等」森林地帯・湿地帯

※白虎神(西方)「象・キリン・ラクダ・ライオン等」乾燥地帯

※勾陳神(中央)「蛇・トカゲ・モグラ・ミミズ等」大地に密着

※騰蛇神(天上)「万物の霊長・動物たちの代表・すべてに棲息可能性を所有」

 

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